「ええ、テギョンの方は、契約書にサインもしてくれましたし、ミニョssiも、ソンベのお話は、受けて貰える事になりました」
大丈夫ですよと明るく話すアン社長からクスッと笑いが漏れて、そうかとPCの中から安心した頷きが聞こえる。
「・・・しかし、あの子も変わらないな」
「そうですね・・・大人になったなぁと思ってたんですけどねぇ・・・」
ペンを持った右手を髪に差し入れたアン社長は、片目を閉じて、僅かに眉を上げ、困り顔をしたが、すぐに笑顔で相手を見た。
「はは、君が兄の様に心配してくれるから、私も助かるよ」
「そう言っていただけると有難いです」
「しかし、そうか、ヒジュンの話を受けるか・・・」
PCの向こうから、溜息にも似た、呟きが聞こえ、何かを案じているのか、少し声が沈んでいる。
「ええ、まだ、どんな曲を提供頂けるかも判りませんけど」
沈んだ声をアン社長も気にかけたのか、憂えた返事を返した。
「最初の仕事は、決まったのか!?」
暫くの沈黙の後、向こう側からミニョの仕事についての質問が飛ぶと、アン社長も笑顔になり、ええと頷いている。
「新曲とタイアップで、化粧品メーカーのCMです」
「ふふ、それは、彼女に相応しいね」
楽しそうに笑う声にアン社長も満面の笑顔を浮かべて、過去から残したままのHPの話をしている。
「ええ、変わらず美しいですからね」
「可愛さも失っていないね」
「ええ、テギョンには、本当に勿体無いです」
「はは、一応、私の娘になったんだから、それは、聞きづてならないな」
「はは、一個人としては、喜ばしいですが、私の立場からすると一番良い時に辞められたので、今度はそうならない様にしっかり手綱を握らせてもらいますよ」
アン社長がPCに向かって拳を振り上げると、得意気なその顔に実に可笑しそうな笑い声が聞こえてきた。
「ふっ、テギョンに勝てるかな」
勝ってみせますとアン社長が握った拳を見せ付けていると、軽いノックの音がして、社長室に入ってきたヒジュンがPCに向かってヒジュンssiですと言ったアン社長にソファに向きかけた足を戻して、背中に覆い被さる様にPCを覗き込んでいる。
「おっ、ギョンセか・・・」
「ああ、この前は、すまなかったな」
こちらとあちらで手を挙げ軽い挨拶が交わされた。
「いや、俺の方こそ悪かったな」
貴重な時間をと言ったヒジュンにお前らしくも無いと笑ったギョンセは、口元に拳を当て背中を丸めている。
「それで、どうなんだ!?相手は決めたのか!?」
「ああ、『マルドオプシ』の生歌を聞かせてもらったが、お前の言うとおりだった」
何がと聞き返さないギョンセにふたりの顔を交互に見ていたアン社長は、きょとんとしているが、ヒジュンは、口の端だけで笑って続けた。
「まだ選考はさせてもらうが、ほぼ固まったな、決めさせてもらうぞ」
ヒジュンの軽快な口調に確信を持ったのか、ギョンセの瞳が俯き加減に足元に落とされると、顎に手を置いてそこを撫で上げている。
「やっぱり、カン・シヌか」
視線を上げながらPCのカメラに近づいたギョンセが、無表情になるとヒジュンを見ていて、ああと頷いたヒジュンにアン社長が椅子を譲った。
「彼が、一番、残ってるみたいだな」
俺の歌には、丁度良いと言ったヒジュンは、譲られた椅子に座りながら、忍び笑いを漏らしている。
「そ・・うか」
「お前の言うとおり式の写真を見る限りでもそうだったが、三人ともミニョssiが、好きだったんだろう」
「ああ、そうらしいな」
話に聞いてるだけだと続けたギョンセが、思い出し笑いなのか鼻で笑うと何だと言ったヒジュンにテギョンの事だと手を振った。
「人妻なのにって、この前も言ってたな・・・」
「何故、お前の息子だったんだ!?」
「それは、俺に似て、良い男だからだろう」
軽い調子で返される言葉にハハハと大きな笑い声が零れ、片目を閉じたヒジュンも笑顔を返すが、太い声を出している。
「少しは、謙遜しろ!」
「お前こそ!相変わらずだな!テギョンは、手ごわいと言ったはずだぞ!」
笑いながらギョンセも強い口調で言い返し、知己の遠慮の無い話を聞いていたアン社長がポカンと口を開けた。
「それでも俺の歌だ!一番相応しい奴に歌って欲しいさ」
自嘲的な笑みを零すヒジュンに同調したギョンセも小さく笑みを零している。
「哀情か」
「ああ、ファン・テギョンの恋情とは違う」
「哀情の中の恋情か」
ああ、と素心で頷くヒジュンにギョンセもアン社長も頷いていて、一瞬の静かな時が経過し、顎に手を当てたヒジュンが、黙り込んでいるギョンセにそうだと話しかけた。
「お前の孫だけど」
「なんだ!?」
「あの子は、歌はやらないのか!?」
「ああ、それは・・・」
ふたりの会話を聞きながら、手持ち無沙汰に持っていたペンを動かしていたアン社長が、話に入ると、ギョンセが、そちらが詳しそうだとクスクス笑っている。
「ええ、子供バンドのボーカルは、元々リンがやる予定でしたから」
「そうなのか」
横を見上げたヒジュンに大きく頷いたアン社長が、夏までには、決まると思いますと告げると、そうかと頷いたヒジュンは、両腕を抱きかかえる様に組んだ。
「最終決定は、テギョンがします」
「そうか」
納得したという顔で頷いたヒジュンにギョンセが不思議な顔をすると、何かあるのかと聞いている。
「いや、ああ、『ワン・ツー・スリー』って聞いたことあるか!?」
「ワン・ツ・・・ああ、『ハナ・トゥル・セゲ』か」
「知ってるのか!?」
「ああ、ミニョの習慣だろ!それをリンが、歌にしてる」
「それを聞きたいんだよなぁ」
顎を撫で上げながら考えているヒジュンに何処で聞いたんだと問うギョンセは、首を傾げ、あちらも顎に触れていて、ユソンに聞いたと言ったヒジュンにああと頷いた。
「欲を出しすぎだな」
「煩いなぁ、お前の身内が欲を掻きたてるんだよ」
「俺のせいではないだろ」
「いい女を捕まえたもんだなぁ」
上の空な顔でふわふわと会話を続けているヒジュンは、アン社長と視線が合ってニヤッと笑うと立ち上がって、また椅子を譲り返している。
「ミニョの『マルドオプシ』は、そんなに惚れるのか」
「ああ、惚れる!あの声を自分のものにしたくなる!」
「ったく、お前もテギョンと同類だな!」
「ファン・テギョンも声に惚れたんだっけ」
コーヒーサーバーをセットしているヒジュンが、背中を向けたまま呟いて、アン社長とギョンセは、顔を見合わせたが、ギョンセが首を振った事にアン社長は頷いている。
「最初は、その様ですね」
「まぁ、それも解らなくは無いな!それに俺の本命はファン・リンだしな!」
「ン!?」
「えっ!?」
コーヒーカップを口につけアン社長とPCの中のギョンセが驚くのも構わずにズズッと音を立てたヒジュンは、涼しい顔で美味いなと呟いた。
「ファン・リンに歌わせるのが、俺の最終目標だな」
「まだ、子供だぞ」
「ああ、でも、声に惚れたって意味では、あちらの方が早いな」
カップを持って、ソファに向かうヒジュンにソンベの歌ですかと聞いたアン社長は、間抜けな質問ですねと言って、クスッとヒジュンに笑われ、PCの中のギョンセも半分立ち上がった状態で、向こう側で机に手をついている。
「まぁ、まずは、カン・シヌとコ・ミニョで、デュオをやらせてくれ!子供達は、テギョン君に一任されてるんだから、口を出すつもりも無い!ただ、もし、ファン・リンが、ボーカルをやるなら・・・」
その時はと言ったヒジュンは、再びコーヒーを口にして笑顔を浮かべ、ギョンセは、アン社長に向かって、テギョン次第だなと言って通信を切り、アン社長は、ゆったりとヒジュンの元に歩み寄って行った。
「ファン・リンもいずれは、マネジメントするつもりだろ」
そうですねと頷くアン社長に笑顔を零すヒジュンは、先の長い話だなと呟いて仕事の話を始めた。
ミニョの仕事復帰に選ばれたCM撮影にユンギが関わっている事を聞いているヒジュンは、テギョンのタイアップ曲が気になっている様で、子供バンドの先行きの話をしながらも、近々に始まるミニョの撮影の事やアルバムに入れる予定の歌の事をアン社長に聞いている。
★★★★★☆☆☆★★★★★
「ねぇ、オンマー!」
「何ですか!?」
「今日は、お祈りしないのー」
ソファに座って雑誌を拡げているミニョの前で、膝に手を置いたリンが、ミニョの顔ではなく紙を捲る指先を見つめている。
「今日は、しませんよー、アッパはお家にいますし」
ファッション雑誌を捲りながら答えるミニョは、ふーんと呟いたリンの声にチラッと顔を見るとパタンとそれを閉じて、どうしてと聞いた。
「じゃぁ歌って!」
「『ワン・ツー・スリー』以外なら良いですよ!」
にっこり笑みを浮かべて、リンの頬に手を添えたミニョは、顔を覗き込みながら、アッパがいるからダメと首を傾げてみせる。
「えー!それが良いんだもん!」
「歌なら歌ってあげます!」
ボイストレーニングになるしと言ったミニョに上目遣いで背中に両腕を回し腰をくるくる横に振っていたリンは、不満そうだが、じゃぁ、何でも良いと言って、ピアノに向かった。
「ふふ、何がいいですかね」
そう言いながら、リンが書き上げた譜面を捲っていくミニョは、ピアノの天板に肘を乗せ、祈るように組んだ指先に顎を乗せている。
「きれいなーゆーびさきー」
リンが、突然『マルドオプシ』を弾き始めた事に驚いた顔をしたミニョだが、良いですよと言って、伴奏に合わせた。
「会いたくてずっと・・・」
ふたりで、ハーモーニーを奏でながら演奏をしているとテギョンが、リビングに戻ってきて怪訝な表情を浮かべ、ミニョの顔を見つめて、考える様に腕を組んでいる。
不思議な顔をしたミニョは、リンに合図を送ると歌うの辞め、どうしましたと近づいていった。
「いや、ああ、お前が『マルドオプシ』を歌った時に違和感を感じたんだ」
けど、と続けたテギョンは、片目を閉じるとリンに向き直っている。
「お前の曲って『綺麗な指先』って歌詞があるのか!?」
その言葉にテギョンを見つめていた顔をミニョにチラッと向けたリンは、あるよと言って、「ワン・ツー・スリー」を弾き始めた。
「それを聞いてたのか・・・」
自問自答するように呟いたテギョンは、唇を指先で一撫でしている。
「お前が歌ってただろ!?」
ミニョを見つめてそう聞いたが、驚いているミニョは、きょとんとしながら首をゆっくり曲げた。
「多分、玄関を開けた時に聞こえた曲だな」
前から弾いてたかとリンに訊ねたテギョンは、時々というリンの言葉にそうかと頷いて呆けているミニョにどうしたと聞いた。
「前から、知ってたのですか!?」
「ああ、歌詞は全部知らないけどな」
「ケンチャナー!」
突然、大きな声を出したミニョに驚いたテギョンが、仰け反るように体を引いている。
「なっ、何なんだ!突然」
まるで事故を起こした様に顔を歪め、泣き出しそうなミニョの顔に瞳を大きくしたテギョンは、頭をすかさず引き寄せ、ミニョを抱きこんでリンの顔を見た。
テギョンの顔を無表情で見つめたリンは、ピアノを指差すと上に置かれた譜面を手に取ったテギョンが、それを見て、ざーっと流すように視線を送ると小さく笑っている。
「そういうことか」
「そういうことだよ!」
「いつからだ!?」
「アッパが出かける時はいつも!ミナムに聞いたら、あっちのお家でもやってたんだって」
そんなに前からと呟いたテギョンは、譜面をリンに渡すと腕の中で鼻を啜っているミニョをきつく抱きしめた。
「お前の祈りってそういうことか」
「わたしが勝手にやってるだけです」
「俺を愛してるって事だな!」
笑いながら強気な発言でミニョを抱きしめているテギョンの腕は、優しく、その胸を軽く叩いたミニョに膨れてるだろと言ったテギョンが、軽く向きを変えるとリンに手を伸ばして、ミニョの背中に覆い被さる様に椅子に立ち上がったリンが、テギョンの手を取り、ふたりに囲まれたミニョが、顔を上げてテギョンを見つめると、『マルドオプシ』には、負けるけどいい歌だなとミニョの頭越しにリンに言い、それに唇を尖らせてテギョンの腕をギューと握り返し、離した腕をミニョの首に廻したリンが、ばれちゃったねとミニョにおぶされるように背中にくっ付いていて、嬉しい秘密が一つ暴かれただけのいつもとなんら変わりのない日常風景が広がっているのだった。
★★★★★☆☆☆★★★★★★★★★★☆☆☆★★★★★★★★★★☆☆☆★★★★★
『ワン・ツースリー』
軽く閉まる扉に
手を振って
振り向いて振り返って
笑顔を浮かべる
ワン・ツー・スリー
折れていく膝
綺麗な指先が近づいて
祈りを奉げる
今日の一日
無事に過ごせるように
メイルメイル(毎日毎日)
膝をついて
祈ってる
誰の願い
誰への愛
軽く折れる膝
ハナ・トゥル・セゲ
離れていく指先
きっかり3秒
長くも短くも無い
彼女のおまじない
★★★★★☆☆☆★★★★★★★★★★☆☆☆★★★★★★★★★★☆☆☆★★★★★
上の詩でお気づきの方もいらっしゃると思いますが、『マルドオプシ』の歌詞!
『綺麗な指先が遠ざかっていく』って、恋の歌と捉えればテギョミニョなんだけど、
それは『美男』まんまだし、ミニョに出会った時には、この歌、既にデモテープがあったしと、
子供時代のテギョンが感じるファランの指先だよなぁと勝手に妄想して、これだけを元に、
遠くなるより近づいて欲しいなと走ってきたお話なので、ミニョの仕事と子供達のバンド、
リンとテギョンの作曲等等、そこそこ絡んだと勘違いしてくれたら∑ヾ( ̄0 ̄;ノ嬉しいなぁ(^Ⅲ^;)
次回は、『ハンサラミ(一人だけ)』の一人遊びになる予定ですが、あまりにこの時期なのに毎日寒くて、天気が悪いから、違うことを妄想してしまった!
次回は、それをUPするので、宜しくお願いしまーす!・・・今日は違う『雨』・(*゜▽゜ノノ゛☆
最後まで、お付き合いありがとうございました\(^o^)/
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