階段を昇りながら、ミニョとテギョンは、ヒジュンのレコーディングを受ける事を確認し合ってリビングに向かっていた。
「ソンベですから、変な事に使うとは思えないですし、その様に疑うべき方ではないですもの」
「それもそうなんだよな・・・芸能界でずっと頑張ってる人だし俺達の事も良くわかってくれてるしな」
だけどなと続けたテギョンは、首を傾げている。
「何故、あの歌と指定してきたのか・・・が、引っかかるんだよな」
まだ、難しい顔をしていて、納得が出来ていない様だ。
「こちらにそういう思いが、あるから・・ですよね・・・差し替えたという・・・本来あるべき姿に戻したといっても一時でも違う物があった訳で、あれは、とても素敵な歌なのに」
ミニョが、トコトコッとテギョンに近づき、後ろから右手を取って両手で握りこむと笑顔を向けている。
「そうかな」
「きっと、そうです!考えすぎですよ!」
薄く笑ってそうだなと返事をしたテギョンは、リビングの扉に手を掛けるとそこを開いて中に入り、ミニョからゆっくり顔を逸らすとリンのいるソファに目を向けた。
ソファとテーブルの間にドアに背中を向けて座り込んでいるリンは、床に向かって蹲るように体を丸め、忙しそうに手を動かしていて、それを覗き込むように体を傾けたテギョンは、またミニョと顔を見合わせると指を指した。
「何をやってるんだ!?」
「さぁ!?」
不思議な顔をしたミニョは、テギョンに首を傾げて見せるとリーンと呼んでいる。
しかし、返事は無く、僅かに揺れる体に時折、小さくふふと忍び笑いが聞こえ楽しそうな様子はふたりにも伝わっていて、また顔を見合わせたテギョンとミニョは、笑顔を交わすとリンにゆっくり近づいていった。
「何をしてるのですか!?」
ミニョが膝を折って声を掛けるのと同時にテギョンがソファに座り、その振動といおうか、僅かな揺れが、リンの腕にあたった様でビクッとなった体は、この上なく飛び上がり、振り向いた顔は両目が見開かれテギョンの顔を凝視している。
「すっごい顔だな」
「驚きましたかね」
「みたいだな」
ミニョとテギョンが、クスクス笑って、リンを見つめると、ヘッドホンを外したリンが、胸に手を当てて息を吐き出した。
「もー!!ビックリしたでしょ!!」
テギョンに指を突きつけて睨みつけている。
「そんなに集中してたのか!?」
ミニョは、リンが床に広げていたノートを持ち上げると、それを見て、凄いと言いながら数ページめくり、ふとそちらに目を向けたテギョンも見せろと言ってミニョからノートを受け取る為に腕を伸ばしている。
「あっ、ちょ・・・」
リンが、腕を伸ばしてそれを制しようとしたが、テギョンが、一瞬早くリンの額に手を当てて軽く押しやりミニョからそれを奪う様に受け取ると、テギョンの腕の長さとの僅かな距離の分だけ届かないリンの手が空中を彷徨っている。
「アッパー!」
「うるさいな・・・お前が書いたんだろ」
クスッと笑ったミニョが、リンの腰に手を添えるといらっしゃいと膝に抱きかかえてソファに座った。
「凄いな、この短時間にこんなに書いたのか!?」
ミニョの様に数ページを捲ったテギョンがそれを見ると感心した様に呟き、隣で観念したように腕を組んだリンはそれでもふくれっ面をして、唇を尖らせてふんと言っている。
「まぁ、でも当然か、俺の新曲も写してるくらいだしな」
テギョンが、何気無く言った一言だったが、リンの眉間が僅かに寄ると凄い勢いでテギョンを見つめた。
「この辺、間違ってるけどな!」
クスクス笑ったテギョンが、リンが書き出したノートに指を指して指摘すると、ニヤッと笑っている。
「これ、欲しいだろ!?」
これと言ってテギョンは、リンの五線紙の楽譜を指差すけれどリンは、別な事が気になっている様だ。
「欲しいけど、アッパ!何で知ってるの!!」
リンの言葉にテギョンも同じ様に眉間を寄せたがああと口角をあげ、ソファに片足を乗せて体の向きを変えている。
「お前の秘密の時間の事か!?」
ニヤニヤしながらリンを見るテギョンは、これだろとポケットからスタジオの鍵を取り出して振って見せている。
揺れる鍵を凝視して黙り込んでしまったリンは、更に不機嫌そうなふくれっ面をしてテギョンの目をチラッと見ると視線を泳がせている。
「お前は秘密と思ってるんだろうけど、判りやすいんだよ」
「何のことです!?」
ミニョがリンの腰を引き寄せる様に抱き込む腕に力を入れるとテギョンが、早朝の秘密だと言った。
「ああ、あれの事ですか」
「オンマも知ってたのー」
リンが、振り返ってミニョを驚いた様に見ている。
「アッパが教えてくださいましたよ」
笑顔のミニョは、リンの頭を撫で、そうですよねとテギョンを見た。
「ずるーい2人して僕に黙ってるなんてー」
ミニョの膝の上で駄々をこねる様に足をばたつかせたリンは、テギョンをまた睨んでいる。
「お前が黙ってやってたんだろ!勝手に人のものを動かしやがって」
リンの額を突いているテギョンも不機嫌そうで、腕を組んだリンは、テギョンをチラッと見ると何やら小さな声で呟いている。
「オンマの秘密は知らないくせに」
「何か言ったか」
動かされた口元に目を細めたテギョンが、リンに聞いたが、にっこり笑ったリンは、満面の笑みを浮かべると、ミニョの腕を外してぴょんとその膝から飛び降りた。
「なんでもなーい」
ミニョとテギョンの前に立って、にっこり笑っている。
「ふん、取りあえず、これは弾いてもいいけどな!この家の中だけだ!これは、俺とミニョ以外、本当に誰も知らないんだからな!」
メモリーカードの入った箱を持ち上げたテギョンが、ポータブルプレーヤーも持ち上げてそこからカードを抜くと元の様に仕舞いこんでいる。
「そうなの」
テギョンの指先を見ていたリンは、不思議な顔をしながらミニョを見た。
「ええ、ミナムオッパもシヌオッパも、勿論ジェルミも知りません!アッパとオンマだけの秘密の歌ですからね」
ミニョが前屈みにリンに諭すように笑顔を向けるとふーんと頷いたリンが、テギョンの視線が自身に動いた事に気付いてなーにーと言った。
「外で絶対弾くなよ!約束するならこの楽譜を出してやる!」
「わかったー!」
怒ったような低い声だったが、リンは笑顔でそれに答えるとハーイと両手を上げて返事をしている。
「じゃぁ、俺は暫くスタジオに篭るからな」
「ええ、お夕飯にはお呼びしますね」
テギョンが、呆れたようにリンの顔を見て、ソファから立ち上がるとミニョも立ち上がって、互いに軽く腕を回し、それを見上げているリンはトタトタとテギョンの膝にくっ付いている。
「アッパー僕も行くー」
「ああ」
膝にくっついて見上げるリンに返事をしたテギョンは、メモリカードの箱を左手に抱えると右手を差し出して地下スタジオに戻って行きミニョは夕飯の準備をする為にキッチンに戻って行くのだった。
★★★★★☆☆☆★★★★★★★★★★☆☆☆★★★★★★★★★★☆☆☆★★★★★
一部こちらのエピソードが被った(^^)良かったらどうぞRin's secret time(リンの秘密の時間)!?
にほんブログ村