「ね・・・だから・・・」
指を動かしてシヌに笑顔を見せるリンは、ストロークだけをしている右手で、弦を弾いて、リズムを刻んでいた。
「アッパは、こうしないもん!!」
テギョンの真似なのか、コードを押さえながらシヌにそれを見せていてキャキャとはしゃいでいた。
椅子に座ってリンの隣でギターを膝に乗せ、屈み込むように見ているシヌもクスクス笑っている。
「でも、テギョンのギターも凄いんだろ!?」
「うん!!アッパのギターも凄いー」
シヌを見ながら、大きく頷いたリンは、にっこり微笑んでいる。
「次のアルバムどうするつもりかな」
ピックを弦から外したシヌが、ストロークを始めるとリンは、知らないと言って弾いてとシヌを見た。
「何を弾いて欲しい!?」
「えっとねー・・・」
リンが考え込むように口元に指を当てると丁度、テギョンがミニョを伴って戻って来て、中扉が開くとそれに気付いたリンが、オンマッと呼んだ。
「リン!ちゃんと一人で来られましたね!?」
「うん!!」
ギターをシヌに渡して椅子から降りたリンは、やっぱりミニョに駆け寄ってギュッと抱きついている。
「シヌオッパ!ありがとうございます」
ミニョが、リンを抱き上げるとシヌに向かって頭を下げた。
「いや、リンに話を聞いてて楽しかったよ」
「何の話だ!?」
スタジオの奥に置いてある自身のギターを取り出していたテギョンが、不思議な顔をしている。
「お前とミニョの話」
シヌがクスッと笑ってテギョンを見ている。
「ふん!また余計な事を言ったんだろ!?」
リンの一言で、振り回される大人達は、嬉しい事も勿論だが、驚かされる事もしばしばある為、テギョンは、少し警戒しているようだ。
「そんな事なーい」
シヌが口を開くよりも先に不満そうなリンの声が響いた。
「オンマと僕の事だもん!」
リンがそう言うと、テギョンが思い出した様にそうだと言った。
「お前、今日が、顔合わせっていつから知ってたんだ!?」
ギターを持ってソファに座ったテギョンにミニョの腕から降りたリンは、うんと首を傾げると、えっとねーと瞳を上に向けた。
「日曜日にユンギヒョンと公園でギター弾いてる時ー」
トコトコとシヌの隣に戻って、椅子に座り直し、ミニョもそれを見届けてテギョンの隣に座った。
「わたしも今朝まで知らなかったですからね」
テギョンの矛先が自分に来ると思ったのか、先に口を開いたミニョに横を見たテギョンは、突き出した唇を僅かに動かしている。
「お前も一緒にいたんじゃないのか!?」
先を越された事に面白くなさそうな顔をしたテギョンは、シヌに向かって目配せするとシヌが横のテーブルから譜面の束をテギョンに渡した。
「ええ、ユンギssiが、リンと練習している間にちょっとお買い物に行かせて頂きました」
頬に手を当てたミニョは、申し訳ない様な照れたような表情で、テギョンは譜面に書き込みをしながら黙り込んでいて、同じ様に黙って聞いていたシヌが口を開いた。
「リンのバンド!?」
「ええ、そうです!一応、他の方のご両親ともご挨拶を・・・」
「そうなのか・・・驚くだろうね」
シヌは、リンを見ている。
「ええ、一応社長やユンギssiが、お話は、して下さっている様なのですが・・・」
「ファン・テギョンだからね」
「ええ」
ミニョが、嬉しそうに頷いている。
「ふん、俺だけじゃなくてお前も芸能人だろうが」
「そうですけど・・・オッパは、スターですから・・・」
不機嫌に言ったテギョンにつられた様にミニョも不満そうに返している。
「お前のファンもそれなりだよな・・・」
面白くなさそうなテギョンは、先程社長に合意した写真についてミニョを責め始めた。
「大体、お前、俺に断りも無く勝手に決めるなよ」
「オッパもOKしたじゃないですか!?」
「あれは元々OKしてあった写真なんだよ」
「だったら別に良いじゃありませんか!」
ぷーと膨れていくミニョは、テギョンを恨めしそうに見ていて、その顔にテギョンも不満そうに唇を歪めている。
「ね・・・そうでしょ!?」
リンが、シヌに向かってそう言うとシヌがそうだなとクスクス笑い出し、テギョンとミニョは揃ってきょとんとした。
「なんですか!?」
「なんだ!?」
ふたりの顔を見て、口元に手を当てたシヌは、リンと顔を見合わせると面白いなと言った。
「なんだ!」
「お前達って本当に似たもの夫婦というか・・・」
テギョンの性格が変わったのかなと昔の事など解るはずも無いリンに聞いている。
「わからないけどアッパよりもオンマの方が絶対強いと思うのー」
リンは、にっこり笑ってシヌにそう言っている。
「なっ・・・」
テギョンが、目を見開くと目の前でニィっと悪戯な顔で笑うリンと目が合った。
「アッパは、ぜーったいオンマに負けるもーん」
テギョンを指差してクスクス笑っている。
「お前だって負けるだろ!」
テギョンは、リンを相手に負けん気を出している。
「僕は、オンマより強いもん!」
リンは、口角を目一杯持ち上げてテギョンそっくりな笑顔で笑った。
その顔に蕩けた者が約一名、こちらもにっこり笑ってリーンと言いながら腕を伸ばしミニョに笑顔で口を開けたリンは、オンマっと言ってまた椅子を降りてきた。
ミニョの腕に収まると、抱き合って頬を摺り寄せている。
「ふふ、リンが最強です!」
ミニョが嬉しそうにリンを抱き上げて膝に乗せた。
「オンマの一番だもん」
「そうです!オンマの宝物です!」
「お前の一番は俺だろ」
「違うー!アッパはオンマの特別だもん!一番は僕なの!!」
リンの一言にテギョンは、ギョッとして固まり、黙ってしまった。
ニイっとあがるリンの口角。
目元が徐々に緩んでくると勝った~と両手を上げた。
「はぁー勝ち負けじゃないんだけどな・・・」
テギョンが、呆れた様にそう言うと、やっぱりシヌがクスクス笑っている。
「お前達って家でもそうなのか!?」
嫌そうに顔を歪めるテギョンは、ああ、そうだなと言っている。
「ふ、ファン・テギョンもリンに掛かると形無しだな」
面白いなとシヌは、笑い続けていて、ミニョはリンと手を握り合って、何かを囁き、テギョンはそんなふたりを見つめ、首を振るとまた溜息を付いた。
「シヌ、次のアルバムの件だが・・・」
ミニョと手遊びを始めたリンを見たテギョンは、仕事の話を始めた。
「ああ、夏のライブに向けて新曲を出すんだろ!?」
「ああ、そのつもりで、10曲程は出来上がってるんだ」
テギョンは、前に置いた譜面の束を見つめて、その中から数枚を取り出した。
「お前はどうするんだ!?」
次に出すA.N.Jellのアルバムは、シヌが作詞作曲したものを取り入れることが決定していた。
その為の曲作りに既に取り掛かっているシヌは、ドラマの撮影の合間にテギョンに意見を求めていた。
「この前のでやろうと思うけど、気に入らないならアレンジしてくれてもいいぞ」
下を向いたままストロークを始めたシヌは、お前がリーダーだからなとその曲目を弾き始めた。
「いや、問題ない!それと・・・空いてる一枠だが・・・」
テギョンは、そこで言葉を切ると、リンとミニョを見て視線を床に投げた。
「何かあるのか!?」
「いや・・・ミニョの歌を入れようと思う」
シヌを見て頷いたテギョンに、目を見開いて横を向いたミニョと驚いているがワクワクした顔のリンが、テギョンを見つめている。
「オッパ・・・」
ミニョの戸惑った声が漏れた。
「アッパー!オンマが、歌うのー」
ミニョの手を握り込んでいるリンは嬉しそうに聞いた。
「ああ、レコーディングは春以降だが、それまでなら十分練習期間はあるだろ」
テギョンはニヤッと笑うとギターを抱えたままソファに沈み込んでいく。
「ずっと考えてたんだ、こいつに歌ってる所を見たいと言われてからな・・・」
こいつと言ったテギョンはリンの頭に手を伸ばした。
「お前が復帰をするなら、タレントや、モデルの仕事だけじゃ勿体無いからな」
お前の声に惹かれたんだからとテギョンは言った。
「そういう訳だから、コ・ミニョ!これから指導もするから覚悟しとけよ!」
テギョンが、口角をあげて笑うと、リンは嬉しそうにミニョの手を握って一杯歌ってねと言いシヌは、戸惑った様なミニョに頑張れ大丈夫と励まし、ミニョは、困惑しながらもコクンと小さく頷いているのだった。