素敵なXmasが訪れますように・・・・☆彡
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夕闇迫る時間。
人待ち顔の男女が、時計を気にして遠くを見つめたり、手に抱えたモノを見つめてニヤついてみたり、携帯を片手にキョロキョロしていたり、誰もが待ち合わせの相手を見つけては、次々笑顔を振り翳して、花束やプレゼントを持って前を通り過ぎていく。
家族連れの真ん中で、小さな子供が、サンタさんがと両隣の親の顔を見て話し、時に家路を急ぐ母親や父親然とした人々が、ケーキの箱を片手に通り過ぎて行った。
「サンタかぁ・・・」
イルミネーションに染められた並木道の真ん中、大きなもみの木を飾った広場の空間からは、沢山の音が溢れ、Xmasの気分を高めている。
待ち合わせの為だろうか、その広場の端の柱に身を寄せて、文庫サイズの本を読んでいる少年は、空から落ちてきた白い綿の様な存在を手のひらを上に翳して受け止めると、あっという間に消えてなくなっていったそれが、次第に大きくなっていくのを見つめていた。
「寒い訳だな」
首に手を廻して背中に忘れ去られていたフードを引っ張りあげると頭に乗せて少し深く被って、手を温める様に両手を口元に当てている。
「綺麗な子だなぁ」
大して離れてもいない距離でそんな事を考えながら、手にしているギターを抱え直し、ポロロンと軽くストロークをしてクリスマスソングと讃美歌を奏で始める。
少し狂った音が、哀しさを運んでくるけど直すつもりもないその音に自分には、これがふさわしいと笑顔を作って弾いていた。
暫く、そうやって立ち止まってくれる人もいない中、クリスマスの慈悲なのかギターケースに投げ込まれるコインを見つめて弾いていたら、その少年から突然、声を掛けられた。
「ねぇ、それって、わざとなの!?」
声のした方を見れば、少年が、寒さ凌ぎなのか口を隠す様に本を当てながら俺を見ていた。
「わざと!?って」
下から見上げる少年の顎のラインは、スッキリしていて、十代の肌の張りなのか、見惚れる程に美しく、まるで天使の様だ。
「その音だよ!わざと狂わせてるの!?」
イラッとした棘のある声は、見た目とのギャップにちょっとだけマイナスポイントだった。
「えっ!?」
ギターを指差されて、呆れたような顔をされた。
「だって、アジョシ、音を他に振り替えてるじゃん!最初は気付いてないのかと思ってたんだけど、そうじゃないよね!」
片頬あげて妖しげな笑みを浮かべている。
アジョシと呼ばれて少し戸惑ったが、この子からしたらそうなのか、とどこかで自分を納得させた。
「えっと・・・」
「さっきの讃美歌もコード変えて弾いてたでしょう!4小節2番目」
はっきり場所まで指摘されてしまった。
「良く聞いてるなぁ」
凄い耳だと思った。
「まぁね」
否定する訳でも無くあっさり肯定した少年は、しゃがみ込むと俺のギターを覗き込んでいた。
「手入れはされてるんだね!何で弦を変えないの!?」
ギターをじっと見て、上目遣いで俺の顔を見ていた。
妖しげなのは、その瞳の色もそうで、まるで引き込まれそうな程、黒く、深い。
「ははっ、これで丁度良いからだよ」
「上手なのになんでさ」
高そうなコートを着込んでいるのに行き成り俺の前に座り込んだ少年は、膝を抱えて首を傾げている。
「上手すぎる事が、職を失くす事だってあるんだよ」
溜息混じりに零れてしまった。
「ふーん!?」
解らないという顔をした少年に何故話す気になったのかは判らない。
「俺さぁ、バックバンドをやってたんだよ!けど、ボーカルが、俺のギターが目立つって言い始めてさ・・・」
「悪い事じゃないじゃん」
少年は、きょとんとしながら俺を見ていた。
「そうだけど、歌を聞きに来ている訳だろう!歌手を見に来ているのにサポートが出来ないんじゃ俺の居る意味って無いんだよな・・・それなら、機械でも十分だし・・・」
「アジョシのファンだっているかも知れないよ」
微笑んで俺の話を聞いてくれる少年は、あどけない顔で、ジッと聞いていた。
「それは・・・まったく居ない訳じゃなかったさ・・・」
ポロロンとストロークを続けてみる。
「ボーカルと話し合って、俺のギターを変えてみたり、音を小さくしてみたり、メロディーそのものを変えてみたり、色々したけど、結局、奴には納得できないって事で、デビューも控えていたんだけど、それもダメになったんだ」
「それで、こんな処で弾いてるの!?」
こんな所と言いながらも少年は、別に嘲っている訳ではないらしく、真剣に俺と向き合ってくれていた。
「はは、こんな所でもお客さんは、いるからね」
「ふーん」
「聞いてくれる人がひとりでも気持ちは楽になるもんだよ」
「それは・・・判るけど・・・」
少年は、考え込む様な顔で俯いていて、こんな子にする話じゃなかったなと少しだけ後悔していた。
「ね、アジョシ、次の仕事って決まってるの!?」
顔を上げた彼は、左側の口角だけをあげて俺を見ていた。
「なんだい!それ!君が斡旋してくれるのかい!?」
「出来なくはないと思うんだよな・・・アジョシ、結構弾けるし・・・」
ぶつぶつと小さな声で、呟いた時、少年のポケットから着信音が聞こえ、携帯を取り出した彼は、スクッと立ち上がって話を始めていた。
「うん・・・そうだよ!そう!もみの木のあるところ!」
そう言って耳に携帯を当てたまま、ぐるりと周りを確認した彼は、誰かを見つけて大きく手を振っている。
「オンマーここ!」
可愛らしい感じの女性が、小走りに手を振りながら近づいてきた。
少年の前に立つとリン!!と呼んでその背中に腕を回している。
「久しぶり!元気だった!?」
「貴方こそ元気でしたか!?」
少年もギュッと抱きしめ返してその頬にキスをしている。
「オンマに負けないくらいにはね、元気だったよ!」
オンマと呼ばれた女性は、年若く、洗練されたとても美しい人で、どこか、あどけなさも残っていて、とてもこの少年の母親には見えなかった。
「アッパは!?」
「いらっしゃいますよ」
そう言って、二人が見据える視線の先にスラリと長身の男がポケットに手を入れながら悠然と歩いて来る。
「帰ってきたな!調子はどうだ!?」
「アッパに負けないくらいになったと思うけど!」
並んで立つ男は、とても少年に良く似ていて、親子なんだと一目で判るほど美しい顔立ちをしていた。
「色々話したいこともある!食事に行くぞ!」
長身の男がそう言うと、リンと呼ばれた少年がちょっと待ってと言った。
「ねぇ、アッパ名刺持ってる!?」
「ああ、あるぞ」
男はそう言うとポケットから黒いケースを取り出して中から紙を一枚出した。
それを少年に渡す。
受け取った少年は、やはり胸ポケットからペンを取り出すと後ろに何か書き込みをした。
「はい!アジョシ!」
「えっ!?」
「明日、それ持って、その住所まで来てよ!」
「えっ!?」
「良いから!来れば判るから!」
そう言ってにっこり微笑んだ少年は、俺に名刺を渡して、行こうと言ってふたりの腕を取ると真ん中に立って行ってしまった。
「なんだ!?」
訳も判らず残された俺は、手の中に残った名刺を見た。
「A・・・・エヌ・・・エンター・・テイメント・・・とりしま・・・」
そこまで読んで、俺の手は震え始めた。
「えっ、えええー!!!ファン・テギョン!!!!」
見えなくなる後姿に手の中に残る名刺が本物かどうか確かめる事も出来ず、震える手のひらを反対側でやっと押さえて、白い雪が舞っている中に佇んでいた俺は、翌日、コノ天使を目の前にして、奇跡が起きたんだと思っていたんだ。
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