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床に座って、ソファとテーブルの間で書き物をしていたリンは、後ろを振り返りソファに手を掛けると、よじ登ってダイニングを見た。
ミニョが背中を向けて、右に左に目立ち始めたお腹を支えながら少し窮屈そうに動いている。
それをソファの背もたれに目だけ出して眺めたリンは、人差し指を唇に当てゆっくり足音を立てないように降り、廊下に出て行く。
暫く抜き足差し足で歩いていたが、地下に降りる階段の前まで来るとリビングの入り口に視線を送ってニッと笑った。
片手にノートを抱えて、壁伝いに降り、最後の一段を飛び降りたリンは、目の前の大きな扉をゆっくり開けて、ガラス張りのウインドウに近づくとちょっと背伸びをして中を覗いた。
ピアノの置かれた一番奥の壁際を見たリンは、テギョンが眼鏡をかけて口を開けながら、身体を揺らす姿に口角だけあげて笑顔になって中扉に向かって行く。
音を立てないようにゆっくり開閉された扉からテギョンの声が漏れてきた。
「アッパー!!」
中に入った途端走って近づいた。
その声に視線だけ動かしたテギョンは、歌うことは辞めず目元を緩ませ、隣に置いてある小さな椅子に座って見上げたリンと視線を合わせてから数小節を弾いて指を止めた。
「どうした!?」
譜面台に置かれた鉛筆を持ち上げながら、紙に書き込みをしている。
「これ聴いてほしいのー!!」
リンが、持っていたノートを差し出した。
「書いたのか!?」
「うん、この前ダメって言われたの直してきたー」
ふっと小さく笑ったテギョンは、眼鏡を外すと、どれと言ってノートを受け取っている。
描かれる音符を目で追って、紙の上でリズムを刻む。
ざっと一番下まで見てから、また上に戻って同じようにリズムを刻んだ。
それを横で見ているリンは、心なしか緊張しているのか指をギュッと握って繰り返されるテギョンの体の揺らぎに僅かに視線を落とした。
それをチラッと横目で見たテギョンは、口角をあげ、また目元を緩めている。
「どうしてこうなったんだ!?」
テギョンが、譜面を前に置いてリンの方は見ずに聞いた。
えっと顔を上げたリンは、どう言おうか思案している様だ。
「俺の指摘したとこ全部直してきたな!?」
「うん!! オンマを見てたら違うなーって思ったのー」
リンが明るく返事をすると、テギョンがそうかと頷いた。
「お前の天使への思いか・・・」
「オンマの思いだよー」
リンが鉛筆を取り出し、えっとねと言いながら立ち上がった。
「ここと、ここを直したらもっと優しい曲になったのー」
テギョンに音符の書き換えた箇所を示している。
「オンマがね、のーんびりで良いですって言ったの」
「どういうことだ!?」
テギョンは、リンの示した音符を見つめて小さく首を傾げた。
前に見たときは、もっとスタッカートのかかる跳ねた音符だったが、今は、白い音の伸びを表す物に変わっている。
「オンマといるとね、いっつも楽しいから、楽しい曲ばっかり出来るんだけど、最近、オンマ座ってお腹ばっかり触ってるのー」
「ああ、それが!?」
「すっごく、のーんびり色んな事をしてるんだよー」
「それで!?」
「僕の時もあーんな顔してたのかなぁって思ったのー」
リンは、可愛らしく首を傾げてテギョンを見ている。
「優しくって、綺麗な顔なのー!!」
「天使を迎えるマリアの様か!?」
テギョンが、慈悲に満ちた顔かとリンに聞いた。
「うん! それにとーっても嬉しそう!!」
「ああ、お前が、一人だったからな」
テギョンは、リンが生まれてから子供の事をあまり言わなくなったが、時折、ミニョが、ミナムとヘイと双子を見て、リンに兄妹でもいればと言っていたのを思い出していた。
「お前に兄妹が出来る事と愛してやれるものが増える事を喜んでいるんだ」
「そうなの!?」
テギョンがリンの腰を掴んでその膝に乗せた。
「ああ、あいつは自分の事よりも人の事が大事だからな・・・俺や、お前が幸せでいてくれる事が何より嬉しいんだ」
リンは、テギョンの膝の上から鍵盤に手を伸ばした。
「アッパの作る曲もそうでしょ!?」
「んッ!?」
「アッパの曲も皆が幸せにって音がするよ」
リンの言葉にテギョンがそうかと呟きながら、動く指先に伴奏をつけていく。
親子ふたりのコラボレーションが始まった。
リンの作った曲がテギョンの伴奏で完成されたものになっていく。
暫く引き続けて最後の音を奏でたテギョンの口角があがった。
リンの頭に手を置く。
「良いぞ!!コレを載せてやる!!」
「ほんとっ!!!」
リンが嬉しそうにテギョンを振り返った。
「ああ、この曲なら歌詞もつけてやる!」
「やったー!!ありがとうアッパ!!」
リンは、テギョンの腿に両膝を乗せて振り返るとその首に腕を廻した。
頬を摺り寄せキスをする。
「ふっ!けど、他のはダメだったからな」
テギョンが意地悪そうに笑った。
リンが、テギョンに見せた曲は、コレを含めて数十曲程あったが、それを悉(ことごと)く却下されていた。
「次、頑張るもーん!!」
唇の尖るリンは、それでも嬉しそうにテギョンにギュッと抱きついている。
その時、スタジオの扉が開いた。
「・・・あのーオッパ・・・リンは・・・」
ミニョが遠慮がちに扉を開けてきょろきょろしてテギョンの腕に収まるリンを見つけてあーっと口を開けた。
「リン!! 勝手に下に降りちゃダメって言ったでしょ!」
ミニョが、怒った様に膨れてテギョン達に近づいてきた。
「アッパはお仕事中だって言ったのに・・・」
ミニョが、頬に手を当ててしょうがないわねと言った。
「オンマ!! 僕の曲アルバムになるんだよー」
リンは、ミニョの言葉など聞こえていないように報告をした。
テギョンに降ろしてと言うと床に降りて一目散にミニョに走って行ったが、その前で立ち止まった。
「アッパが良いよって言ってくれたのー!!歌詞もつけてくれるって!!」
嬉しそうにミニョに報告したリンは、ミニョの手を取ってゆっくりお腹に頭をつけた。
「天使の為の曲なのー! 僕のも一杯聞いてもらうんだ!!」
ミニョのお腹に伝えるようにリンは話をしていてその姿にクスッと笑ったミニョは、おめでとうと言った。
「そう、リンが沢山ピアノを聞かせてくれるからこの子もとっても喜んでいるのよ」
ミニョは、右手をリンの頭に左手をお腹に当て、ミニョの手の平に照れたように笑ったリンが頷き、テギョンが、ゆっくりふたりに近づいてきた。
「フッ、リンの曲も決まったし、後は俺だな」
最後の追い込みだとミニョの顔を見つめてその肩を抱き寄せ、お腹に手を当てた。
「もう少しだな」
「ええ」
待ち遠しいなと笑いあう家族の笑顔が溢れた光景だった。
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ご訪問ありがとうございましたv(^-^)v
うーんまだ、どっち!?って考えてたり、イッソどっちも(どれも)
書いてしまおうかと・・・無謀な事も考えたりして・・・(笑)
頭、足りないなーなーんて・・・
最後まで読んで頂いてありがとうございます(^-^)ノ~~
また、続きはいつか・・・いつになるやら(^^)/
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