コンサートの最終日は、当然の様にミニョもヘイも子供達を連れてVIP席に座っていた。
始まりから、じーっと食い入るように見ていたリンは、終わりに差し掛かった所でテギョンが一人、中央に立つと特別な曲だと言って披露したメロディーに何故か目を見開いてミニョの膝に抱きついていた。
「どうしたの!?」
ヘイが、音に乗ってはしゃぎまわるスヨンとウォンの首根っこを掴まえながらその様子を気にしていた。
「わかりません」
会場の音にかき消されるようにリンの泣き声は消され、ミニョが心配そうに屈みこむとリンを抱き上げていた。
「どうしたのですか!?」
泣きながらふるふると首を振り続けるリンは、ミニョの首にギュッとしがみ付いてグッと堪えるように声を殺している。
ミニョの手がリンの背中をポンポンと叩いた。
「大丈夫ですよ」
緊張や疲れからなのかと勘違いしているミニョは、リンに優しく声を掛けるが、しがみ付く腕の力はグッと強くなっている。
そんな様子にミニョとヘイは顔を見合わせていたが、テギョンの顔がこちらを向いている事に気がついたミニョが、リンに声を掛けた。
「ほら、アッパがこっちを見ていますよ!」
暗い会場の中でもミニョ達にはテギョンの顔は見えているが、テギョンからは見えないだろうなと思いつつもミニョはリンの顔をそちらに向くように身体を入れ替える。
グスッグスッと鼻をすする様にそれでもテギョンを見たリンは、笑顔を作ると両手を大きく振った。
テギョンも小さくだが振り替えしてその顔も綻んでいる。
中央で歌うミナムは、当然の様にヘイに向かって投げKISSをしていて、その仕種にヘイも喜んで双子をギュッと抱きしめていた。
「うーん!あんた達のアッパは、やっぱり素敵!」
そんな事を言いながら双子にKISSをしているが、双子は互いに顔を見合わせて微妙な顔をしている。
「・・・また会おう!!」
そんな言葉で、幕が惹かれていったコンサートは、三日間の集客も出来も何もかもが大成功だった。
★★★★★☆☆☆★★★★★
「ねぇ、大丈夫!?」
ティッシュを当てられ鼻をかんだリンは、すっかり泣き止んだ顔でそれでも真っ赤になる目元をミニョに見られて恥ずかしそうに擦ろうとしたが、その手を優しくミニョに止められていた。
「駄目ですよ!トッキの目は冷さないと」
リンに微笑んだミニョは、持っていたペットボトルの水をタオルにかけてリンの目元に当てた。
「冷たーい!」
凍らせてあったペットボトルの水はすっかり溶けた様だ。
「何で泣いたの!?」
ヘイが、疑問を口にしたが、まだその辺を動き回っている双子に邪魔されて思うようにいかないらしく大きな声を出した。
「ちょっと!あんた達!置いて行くわよ!」
まだ歩き始めたばかりの子供にきつい言葉をかけるが、双子も判っていない為かきょとんとして顔を見合わせるとリンにトタトタ近づいていった。
「あっ」
「ううぁ」
リンの膝を叩いて遊んでくれとばかりの仕種をしている。
「うーん!僕、今駄目だよー」
リンも双子の言いたいことは判るのか上を向いたまま手だけ動かした。
「ねぇ、リン何があったのですか!?」
ミニョがヘイの疑問を引き継ぐようにリンに問うい、タオルを僅かにずらしたリンは、片目でミニョをチラッと見ている。
んっと首を傾げたミニョが、リンの顔をジッと見ているとあのねと話し始めた。
「僕の曲だったの!」
「「えっ!?」」
ミニョとヘイが不思議な顔をして固まった。
そのままゆっくり顔を見合わせている。
「僕が、オンマの為に書いた曲だったの」
「どれよ!!」
ミニョよりもヘイが先に口を開いた。
「って、泣いた時の曲よね・・・」
ヘイが一人納得顔で、ああ、それでと言った。
「あんたにも内緒だったのね」
腕を組んだヘイはリンを見下ろし、リンも頷いていた。
「それにしたって、何でそれを演奏したの!?」
「えっとね・・・」
リンは、まだ目元にタオルを当てているが、座っていた椅子からぴょんと飛び降りるとミニョと目をあわせた。
「あのね・・・」
言い難そうに困ったような表情をしてミニョを見ている。
「俺からお前へのプレゼントだ!」
いつの間にそこに居たのかテギョンとミナム、ジェルミ、シヌが、ヘイの後ろに立っていた。
「アッパ!!」
リンが、テギョンを見つけると嬉しそうに走って行った。
双子もミナムを見つけて同じように走ろうとしたが、まだ歩き始めたばかりの双子は、トタトタとゆっくり歩くのが精一杯で、お尻を振って歩く姿を見ていたヘイが一人を抱き上げ、近づいてきたミナムがもう一人を抱き上げている。
「わたしですか!?」
ミニョが、不思議な顔をしながら、一歩前に出るとジェルミとシヌが顔を見合わせてにっこり笑った。
「ヒョンがどうしても今日コレをやりたいって言ってさ!急遽入れ替えたんだよね!」
ミナムが、ウォンに頬を引っ張られながら口を開いた。
ウォンはキャッキャと笑っている。
それを見ていたヘイの腕の中のスヨンも同じことをしようとした様だが、ヘイの頬に手を当てると何故か触れるだけの仕種をした。
「どういうことよ!」
ヘイが、テギョンを見ている。
「お前には、関係ない!」
相変わらずヘイへの態度は、改まらないテギョンが冷たい視線を投げ、ヘイも負けていない態度でテギョンを睨んで口を開きかけたが、ミナムがそれを止めた。
「後は、三人で、話せよ! 家族だけの方が記念日には良いだろ!!」
「そうそう!俺達、先に打ち上げ行くから!」
「後から来いよ!ミニョもリンも必ずおいで」
ミナム、ジェルミに続いてシヌが、優しく声を掛けるとミナムは、ヘイの手を引いて行くぞと言った。
首を傾げて後ろ髪を惹かれるような仕種をしたヘイだったが、チラッとテギョンを見て黙ってミナムに連れられていった。
会場のVIP席に残されたテギョンとミニョとリンは、それぞれに顔を見合わせて、微笑んだテギョンが、ミニョに近づき、椅子に座るように促している。
「記念日ですか!?」
ミニョは、先ほどのミナムの言葉を反芻しながら思い出そうと考えている様だが何も浮かんでこないのか難しい顔をしている。
「ああ」
テギョンが、微笑むリンと顔を見合わせて短く答えた。
「アッパとオンマの記念日だよ!」
「コンサートですか!?」
「関係ないって言っただろ!」
テギョンが昨夜の会話も同じことを言ったよなとクスッと笑った。
「思い出したって言ったのお前だぞ!」
「アレは・・・思い出しましたよ!でも、それとリンは関係ないって言ったじゃないですか」
不満そうに頬が膨れたミニョはテギョンをジッと見ている。
「僕の曲!」
リンが、テギョンを見上げて首を傾げた。
「ああ、お前の曲が一番しっくりきたんだ!」
今の俺にはなとテギョンは夜空を見上げた。
「お前のオンマの為の曲だったけど、俺のミニョへの曲だった!アレを見つけた時は正直、どうするか悩んだけどな!俺の曲じゃないものをやっても良いのかってな」
けど、とテギョンは言葉を切った。
「あいつらも納得してくれたし、コレでやっても良いって許可してもらった!」
「許可してくれたの!?」
リンがテギョンに聞いている。
「ああ、あいつらには記念日の事を話したからな!」
「ふーん」
リンとテギョンとふたりで話が進んでいく横でミニョは首を曲げて聞いているが全く話が見えない事にえーとと呟いた。
「記念日ってあっちですよね・・・」
テギョンに聞いた。
「あっち以外に何かあるのか!?」
ギロッと視線を投げたテギョンは、リンをミニョとの間に降ろして背もたれに手をつき、身体を横に向けた。
「アッパのプロポーズでしょ!!」
リンがミニョの顔を見てそう言った事にミニョの頬は赤くなったが、そうですとリンに微笑んでいる。
「ええ、プロポーズしていただいた日です」
テギョンを真っ直ぐに見た。
「ああ、お前が俺を選んでくれた日だ!」
「僕もー」
リンが手を挙げた事にテギョンの顔がきょとんとなったが、微笑んでいるミニョはええ、と言った。
「ええ、そうです!」
「おい!どういうことだ!」
テギョンの見開かれる目にミニョはリンの頭を撫でるとその腰を抱いた。
「あの時、、多分リンも、もう居たのではという話をしたのです・・・」
「俺は聞いてないぞ!」
「ええ、言ってませんもの」
ミニョは悪気の無い態度でテギョンに言ったが、不機嫌そうに唇が尖っていく。
「三人だったという事か・・・」
「ええ、もしかしたら!」
「お前と俺とリンと3人であの海に行ったと、そういうことか」
「ええ」
「3人であの浜辺を歩いたってそういうことか」
「ええ」
「あの灯台も・・・」
「ええ」
テギョンの次々に出される問いにミニョは憶測の範囲でしかないのにと段々首を傾げながら返事をし、リンは、頭の上で繰り広げられる事に不思議な顔をしながらも二人を交互に見て、それでも幸せそうに微笑んでいるのだった。