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スタスタと控え用の椅子に座ったテギョンは、用意された水のボトルをグイッと煽り何処を見るとは無しに一点を見据えると何気なく置かれた手は、人差し指が小刻みにテーブルを叩いて、組まれた足の上に肘を乗せると、人差し指と親指の間で顎を支えて、その上で不機嫌そうに突き出された唇と時々左右に動かされる瞳が、床を見つめて冷たく睨みつけ、床にくっついた爪先でリズムを刻みながら上下に動かし数分おきに舌打ちを繰り返している。
少し離れた所でお茶を飲んで話をしているジェルミとシヌは、スタジオに入って来た時の冷たい空気を感じて、まだテギョンに一歩も近づけていなかった。
「なんか・・・凄くないヒョン!?」
「ああ、稀に見る機嫌の悪さだな・・・」
ジェルミは、テギョンを見ながらゴクッと喉を鳴らすと脅えた様に自分を抱きしめ、後ろを振り返ったシヌは、冷静に受け答えをしている。
準備の為に動き回っているスタッフ達は、遠巻きにテギョンの姿を確認すると近寄って行く者も中にはいるのだが、軽い会釈と何か射殺しそうな冷たい視線にぶるっと震え挨拶もそこそこにそそくさと自分の仕事に戻って行く。
そんな中、いつもの様にのーんびり挨拶をしながらミナムがやって来た。
「おっはよーございまーす!今日も宜しくお願いしまーす!」
一瞬、スタジオの入り口に注がれた視線と声が、その場の空気を和ませ柔らかくなりかけたが、テギョンがミナムに視線を向けた途端、また硬い空気へと戻って行く。
チラッとテギョンの姿を確認したミナムは、くるっと向きを変えると後ろを気にしながらシヌとジェルミに近づいて行った。
「凄まじいな!ヒョンのブリザード!!」
ミナムが、挨拶代わりに手を挙げてふたりとハイタッチをしながら口にするとジェルミが顔を顰めてぶるっと震えて見せている。
「そーなんだよ!もう誰も近づけない感じっ!!こんなんで撮影出来るのかな・・・・・・」
「大丈夫だろ・・・ファン・テギョンだからな」
シヌが、知れっと答えた。
「ま、そうだね、仕事に関しちゃ、鬼だから!」
ミナムも笑って答えている。
「それにしてもさ、何があったんだろ!?」
ジェルミが、テギョンの方を見るとワン・コーディーが、テギョンの後ろで、衣装のチェックをしている所だ。
「うー!ヌナ良く近づけるな!」
ジェルミが感心したように言うとシヌがそちらを見ながら、でも、と言った。
「前に廻らない辺り警戒しているんじゃないか!?」
「そうかなぁ・・・」
「ふーん!ずっとあんな感じなんだ・・・」
ミナムが、テギョンを見て口の端で小さく笑っていたが、シヌがそれを見て聞いた。
「お前、何か知ってそうだな」
んっとミナムがシヌの顔を見ると、顎をあげたミナムが、ふふんと得意そうに笑っている。
「知りたい!?」
「えー、知ってるなら、教えてよ!!」
ジェルミがミナムの肩を掴んで前後に揺すると暫くされるがままになっていたが、判ったと言ってジェルミの腕を振り払った。
「今朝、ミニョが、入院したんだよ!」
「「えっ!!!!」」
ミナムは、笑顔だが、シヌとジェルミは、目を大きく見開いている。
「なっ!!!たっ、大変じゃん!!!!」
「何かあったのか!!!」
ふたりともミナムに詰め寄りそうな勢いだが、実際詰め寄ったのはジェルミだけで、シヌは、ミナムの表情から冷静に思案している様だ。
「あああーもう!!大変じゃないから聞けよ!!」
再びジェルミの腕を振り払ったミナムが、ふんとジェルミを睨むと腕を組んで、顔を近づける。
「あのさ・・・今朝、ミニョから電話があったの!!これから入院するから後のこと宜しくってさ!」
「えっ!?えっ!?どういうこと!?」
「予定日・・・まだ先だろ・・・!?」
「うん!後、2週間位かな!?」
ミナムが、指を折りながら上目遣いで答えた。
「えっ!?どういうことなの!?」
ジェルミが心配そうに瞳を潤ませてミナムを見ている。
「うーん!ミニョに言わせるとさ、バタバタで入院するのも嫌だし、かといってヒョンは、人気者者な訳で、ふたりで病院にいると、ものの数秒で話題になるし・・・産まれてくる子まで晒し者にはしたく無いってさ・・・」
ミナムが、ミニョの言葉をそのまま伝えるとシヌもジェルミも頷いていた。
「そっかぁ・・・ヒョンのパワー、半端ないし・・・・・・」
ジェルミが、感心したようにうんうんと首を振っている。
「だけど、それとテギョンの機嫌の悪さとどういう関係があるんだ!?」
シヌが、近くのテーブルに置いてあったポットを手に取るとお茶を注いでミナムに渡した。
「うん!? この続きがあるんだよ!」
ミナムがカップに口をつけて喉を潤すとヒヒッと笑った。
「わっ、やーな笑い方!」
ジェルミがそれを見て目を細めている。
「なんだよー聞きたくないのか!!」
「聞きたい!!」
嬉々としたジェルミが、ミナムを見つめると姿(しな)を作ったミナムは、ニッと笑った。
「教えてあげるわー!ジェルミ!!」
ミニョの口真似をするとシヌもそれを見て笑っている。
「ふ、早く話せよ!」
珍しくシヌが、先を促すとミナムも真面目な顔をして、うんと頷いた。
「なんか、ミニョは、ずっと前から考えててヘイに相談してたらしくてさ、入院する病院ってヘイがちょいちょい慰問してる所なんだけどさ、その傳で院長とかにも既に話が済んでて、これって決まってたらしいんだ」
「これって、今日入院するって事か!?」
「うん、そう!! だけど・・・ヒョンは、それを全く知らなかったの!!」
「それは・・・怒るな・・・当然・・・」
「ヒョンだしィー・・・」
三人共にテギョンを見たが、相変わらず、イライラして時折、爪を噛む様に唇に指を当てている。
「アレじゃあね・・・」
「で、今朝、ミニョが、ヘイに付き添ってくれって電話してきた訳なんだけど・・・」
「あっ!ヒョンは、朝聞いたのか・・・」
ミナムが、病院へユ・ヘイを送って行ってふたりに会った光景を説明するとテギョンとミニョの会話を思い出した様に笑っている。
「そう、それでさ、ミニョが言った事が凄かった!」
「何を言ったんだ!?」
「わたしが、アフリカに行ってた時は、もっと長い間待ってたじゃありませんか!?オッパのツアーの時、わたしは、いつも一人で待っているんですよ!2週間位ホテルでも平気でしょ!!」
ミナムが両腕をくっつけ、指を交差させて組むと 腕を顔の前にあげて、組んだ手を右に左に動かしながら瞬きまで付け加えてミニョの真似をしている。
それを見て笑っているシヌは、口元に手を当てていた。
「テギョンは、どうしたんだ!?」
「当然、絶句!!」
「言葉ないよね!それ!」
「加えて、お仕事頑張って下さい!!わたしも頑張ってきますね!って可愛く頭まで下げて笑ったのさ!!」
「うっわー!!ミニョらしっ!!」
「それで、あれか・・・」
シヌは、後ろを見ずにカップに口をつけた。
「今日は・・・荒れそうだな・・・」
天候とは裏腹に凄まじいブリザードが巻き起こっている中で、三人は、顔を見合わせてうんうんと頷いている。
「そろそろ始めまーす!準備は・・・」
スタッフの一際大きな声がかかって、撮影用に用意されたセットの周りに人が集まっていく。
「さー!俺たちも頑張ろうぜ!」
「ああ」
「切替!切替!」
スタスタ先を歩いていくシヌの後ろで、ミナムとジェルミがじゃれ付きながら撮影に向かっていくと、テギョンもしかめっ面でやってきて、ふたりをチラッと見ると不機嫌そうに口に乗せた。
「暑苦しい!!」
そんなテギョンの顔をチラッと見たミナムは、ニヤッと笑うと撮影が始まった空間の中で動きをつけながらテギョンに話掛けている。
「ヒョンさぁ!俺たちに当たったって、ミニョは、いないんだから、おとなしくホテルに泊まったら良いじゃん!!」
「なんの事だ!?」
顔を崩さず低く答えるテギョンは、角度の変わった隙にミナムを鋭く睨んでいる。
「ほら、そういう顔をするから、ミニョが心配するんだろう!」
笑顔を崩さずに答えるミナムは、ミニョと良く似た顔で上目遣いにテギョンを見るものだから一瞬怯んだ喉がゴクッと鳴っている。
「ミニョも言ってたでしょ!ツアーとかだと思えばいいじゃん!!」
カメラマンの指示に答えながら撮影の合間もふたりの会話は続いている。
「はーい、OK-次の準備してー」
セットから降りてくるA.N.Jellの周りにメイクやスタイリストといったスタッフが集まり、崩れたところを直している間テギョンは、ミナムを睨み続けた。
「お前、いつから知ってた!!」
離れたスタッフを確認して休憩に向かいながら小声のテギョンが、ミナムに聞いた。
「俺も今朝、知ったけど・・・」
「ふん!お前にも言ってなかったのか!」
テギョンのイライラは、仕事だと切り替えることで多少懐柔されている様だが、それでも不機嫌に変わりはなかった。
「ヘイは、知ってたからなぁ・・・」
ミナムが、休憩用のテーブルからお茶を飲み、ヘイの事を考えている。
「そうだ!!嘘つき妖精に言って俺に何も言わないって事が、おかしいだろう!!」
水のボトルを手に取りながら、舌打ちをしているテギョンは、グイッとそれを煽ると、まったくと言いながら唇を尖らせていく。
「俺の子だぞ!!俺が、誰より心配するのは当然だろう!!!」
「ミニョだって、不安だと思うけど・・・」
ミナムが、椅子に座って、すぐ横に立つテギョンを見上げた。
「そ・・・れは・・・」
「ヒョンもさぁ、別に来ないでって言われた訳じゃないんだし、ただ、子供が生まれる迄は入院するって決まったんだから、その間のヒョンの事をミニョが心配してるだけだろ!」
ミナムの言葉にテギョンが落ち着かない様子で、瞳を左右に動かした。
「今日の撮影終ったら行くんでしょ!?」
カップを持ち上げたミナムは、口をつけた隙間から見上げるようにテギョンを見ると、チラッと見たテギョンが、遠くに視線を移しながら答えた。
「ああ、一人にしておけないからな・・・」
「ヒョンもさぁ、損な性格だよね・・・」
ミナムの言葉になんだと振り返るテギョンは、その顔をジッと見ている。
「ミニョも子供も心配なのは判るけど、今まで何事もなく来たんだから、あとちょっと、ヒョンはヒョンの出来ることをすれば良いんじゃないの!?」
カップをテーブルに置いて、それを両手で包み込みながらミナムが続けた。
「ミニョも不安だけど精一杯頑張ってるんだし、穏やかに子供を産みたいってただ、それだけだと思うんだよね」
「ふん!そんなの判ってる!」
尖らせた唇を窄める様に引いたテギョンは、真一文字に結び直して溜息の様に鼻から息を出した。
「ミニョは、いつだって俺の事を考えるんだ・・・」
ふたりの前に立っていたシヌとジェルミが、テギョンを見ると三人に背を向けて遠くを見ている。
「なぁ、俺達もお見舞いに行きたいんだけど!」
シヌがそう言うと振り返ったテギョンが、ああと短く答え、あいつも暇だろうからと言った。
「ヒョン、今日は行くの!?」
「ああ、必要な物は全て用意されていたけど、他にあるかもしれないし・・・」
「それは、ミニョだから抜けてるって事!?」
ミナムがニヤニヤしながら聞いている。
「まぁな!ヘイがいるから色々言われるだろう・・・っ・・・」
後に言葉が続くようだったが、テギョンはそれを飲み込んでしまった。
「ははっ!内のカミさんは、おっかないのでね」
ミナムが、笑いながら目を細めている。
「それでも一番だろう!?」
「あったりまえじゃん!!」
シヌとミナムが目を合わせて笑いあっている。
「ねぇ、ねぇ、それよりさ!ヒョン!家にくればいいじゃん!!」
ジェルミが、突然提案をするとシヌがああと頷き、テギョンもジェルミを見た。
「どうせ、あと2週間は、入院するんだったら、家にいれば俺たちも仕事のフォローも出来るな!」
シヌが応えるとにこにこ笑ったジェルミは、他の考えを口にした。
「俺達も立ち会えるかもしれないし!!」
持っていたカップを上に挙げてポーズを作ってシヌを見た。
「そうだな・・・それに俺達と一緒ならミニョも安心だろ!?」
「そ、う、だ、な・・・そうするか・・・」
テギョンが、ホテルでなく、合宿所を選択したことに皆、頷いている。
暫くミニョの居ない生活になるテギョンにとって、ホテルは便利だろうが、人の居ない生活を長くしていないテギョンにとっては、一人になることは寂しくもあるのかも知れない。
「一人よりは良いだろ!?部屋もそのままだから、すぐ使えるし」
「そうだよ!じゃぁ終ったら皆でミニョのお見舞いに行こうよ!!!」
ジェルミがそう言うとテギョンが驚いて、まだ先だぞと言ったが、大きな笑い声に包まれた。
ミニョの出産までの僅かな日、仕事に勤しむA.N.Jellの面々は、空を見上げて、新たな命の誕生を心待ちにしているのだった。
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まれに見る風邪で頭廻らないわ・・・熱は出るわで・・・
マジ!どんだけーな数日でした(笑) また頑張っていこうと思います!
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