リビングヘ向かったふたりは、ドアを開けると、どちらからともなく互いに腕を廻していた。
車中の会話は、そういうつもりがなくてもお互いどこかを責めるようになっていた。
それが、僅かにふたりを不安にさせたのかも知れない。
暫く、抱き合って、お互いのぬくもりを確かめあっていたが、テギョンが、ミニョの髪にキスを落としたのを合図にふたりの体が、離れていった。
「何か、飲まれますか!?」
ミニョが、そう言いながらダイニングへ向かうとテギョンは、ネクタイを緩めながらそちらに短く答え、動かした視線の先のソファに置かれたぬいぐるみに、目が釘付けになっていた。
ネクタイに掛けた手を止めて、じっとそれを見ている。
ぬいぐるみも奇妙なもので、微妙にテギョンと目が合う位置に二つが、抱き合うように置かれていて、上目遣いにジトーっと見つめられてるような感じがした。
左手を上げたテギョンは、ソファに向かって震える様に指を指すと僅かにビブラートのかかる声で、ミニョに聞いた。
「お、おい、これは何だ!?」
冷蔵庫から、ミネラルウォーターと氷を出して、お盆に乗せていたミニョは、少し顎を上げるとテギョンの指差す方を見る。
「ああ、見つけたんです!」
「何を・・・」
未だ固まって、その場を動かないテギョンは、スタスタとお盆を持って歩いてくるミニョを見遣るとまるで、スローモーションの様に腰が引けている。
「どうしたんですか!?」
ミニョが、のんびり口調でテギョンの前を通って、テーブルにお盆を置き、二つのぬいぐるみを抱き上げた。
「両方あったので、オッパにお願いしようと思ってたんです!」
顔の横に持ち上げて、左右に振ってみせるミニョに気を取り直したテギョンは、背筋を伸ばすと、息を吸い込んでいる。
「リン・・・か!?」
「はい!!」
ミニョが、嬉しそうに答えた。
「あいつ、まだ欲しがってたのか!?」
「そうですね。たまに、じっと見てますよ!」
「指を咥えてか!?」
テギョンが、納得顔で笑って揶揄う様に聞いた。
「はは、そういうことはしないですけど」
ミニョが二つを持ってソファに腰を降ろすと、ネクタイの続きを外したテギョンが隣に座って、ミニョからぬいぐるみを取り上げた。
「うさぎと、ぶたか・・・」
「懐かしいですか!?」
「ああ、だが、色は違ったな・・・」
白いうさぎとピンクのぶた。
テギョンが、使ったのは、白いうさぎとグレーのぶた。
「色が違うとダメなのですか!?」
ミニョが、不安そうにテギョンに聞いた。
「ふ、色は関係ないがな・・・」
ぬいぐるみをじっと見つめるテギョンは、何を考えているのか、
暫く眺めて、口角をあげると綺麗な笑みを作った。
横から見ていたミニョが、ドキッとして、手を上げかけ、慌てて前を向く。
「どうした!?」
「や、あ、何でもありません!!」
動揺が現れ、ドギマギした顔が俯いた。
「熱でもあるのか!?」
テギョンが、ぬいぐるみを置いて、ミニョの額に手を当てると顔を覗き込んだ。
正面からテギョンと目が合ったミニョは、固まる様に背筋を伸ばすと慌てて、指を鼻に押し当てた。
テギョンの目が大きく見開かれ、次の瞬間。
「ぷっ。クックククク、あは、あーはははははは」
腹を抱えて笑い始めたテギョンは、脚まで上げて、ソファに凭れている。
「オッパ!!!」
恥ずかしそうに顔を真っ赤にしたミニョが、頬を大きく膨らませると腰に手を当てて、テギョンを見下ろしている。
「はっ、はっ、はは、は、はー」
片目を瞑ってミニョを見るテギョンは、笑いから抜け出せないようで、まだ腹を抱えている。
ミニョは、ふくれっ面で、真っ赤になったままだ。
「ふ、は、そ、それは、反則だろう!!」
テギョンが、口元に手を当てるとまだ笑ったまま、ミニョを見た。
ミニョは、面白くなさそうにプイッと横を向く。
脇腹を押さえたままのテギョンは、呼吸を整えながら、ミニョの頭に手を置いた。
髪を優しく撫でる。
「思い出したのか!?」
「はい・・・」
思い出したという程ではなかったが、テギョンの綺麗な笑顔にドキドキして訳の判らない思いをしていた頃の感情が、ミニョの中に蘇っていたのは間違いなかった。
「ふ、それにしても、久しぶりに見たな!この、テジトッキ!」
テギョンは、肩を抱き寄せながらミニョの鼻を押しやった。
ミニョは、鼻を押さえると、テギョンを上目遣いに見あげる。
綺麗な顎のラインが、ミニョの目に映る。
「俺も、思い出したな!」
テギョンが、うさぎを持ち上げて、ミニョの胸に押し付ける。
「あの朝、お前の嬉しそうな顔にとっても満足したんだ!」
テギョンの、あの朝という言葉にミニョが、驚いている。
「起きてらしたのですか!?」
「ああ。お前は、あいつを抱きしめて、声もなく喜んでたな!」
「だって、オッパのプレゼントでしたもの!ピンも付いてましたし!」
ミニョが、恥ずかしそうに口にした。
「抱きしめすぎて潰しちまいそうだったけどな!」
「嬉しかったんです!!」
ミニョが、また膨れる。
「まぁ、いいさ、それより、こいつらで同じものを作れって事なんだろ!?」
「はい。リンが、喜んでくれたらいいと思って!」
「判った。楽しみにしてろ!」
テギョンが引き受けてくれたことで、ミニョもほっとした顔をするとリンの喜ぶ顔を想像して、笑顔になっていた。
「お前は、先に寝ろ!俺はもう少し、仕事がある!」
そう言ったテギョンにミニョは、判りましたと答えてリビングを後にした。
きっと明日の朝には、テジトッキと同じものが、リンの枕元に置かれているだろうとそんな想像をして、眠りに付いたのだった。
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