雨上がり、長靴を履いたリンが、傘を片手にぴょんぴょん水たまりを避けていた。
「オンマもやって!」
青い長靴の片方を上げて、つま先に乗った水滴をミニョに見せると、手を引いて、水たまりを目指していく。
ピンクの長靴を履いたミニョは、リンに手を引かれるまま、水の中に足をいれ、つま先を少し動かすと波紋が拡がっていった。
「わぁ、きれい」
水の中で幾重にも連なる輪が、ミニョの足元に広がっている。
「ふふ、光が反射してますね!」
「お日さまが、あるからなの!?」
リンが、空を見上げて、ミニョに聞いている。
「お日さまが、お水に当たると綺麗でしょ!」
ミニョが、リンの手を繋ぎながら下を向くとうんと頷くリンが、笑いながら、また走り出していく。
「遠くに行かないでね!」
「はーい!」
片手を挙げて返事をするリンは、公園の中を水たまりで遊ぶ事に夢中だった。
並木道を散歩しながらの午後の一時、ふと、リンは、耳で何かを捕らえたようで、いきなり立ち止まり、ぐるっと、上に視線を送って一回りするとこっちーと言って道を逸れていく。
少し離れた後ろから歩いていたミニョは、風に揺れている樹を眺めながら、上げていた視線を落とした先で、リンが、並木道の柵を越えていくのを目の端で捉えていた。
「えっ!?ちょっとリンどこに・・・」
慌てて走りよると、リンが入って行ったのは、細い道で、繁った木々に阻まれて足元が見え難くなっていた。
そこから、後を追っていく。
「リン!」
「オンマこっち!」
声のする方に歩いていくと、植込みの中に、ぽっかりと空間が開いて、樹木に囲まれた休憩スペースのベンチで、男性がヘッドホンを着けながらギターを弾いていた。
「あれ、この前の・・・」
「知らないおじさーん!!」
リンがいきなり走り寄って行くとギターを奏でる指先を見つめながらユンギの前にしゃがみこんだ。
ミニョが、ゆっくり歩きながらベンチへ近づいていく。
目を閉じて、ギターを弾いているユンギは、時折、指を上げて、拍子を数えるような仕種をしていて、まだ気づいていない。
「ふふ、夢中ですね」
「うん!」
リンが、首を左右に振りながら頷くとミニョも何を思ったのか、前にしゃがみ込んだ。
ギターを叩いて、宙へ手を伸ばしたユンギが、ゆっくり目を開けると並んで、しゃがみ込む親子に目を見開いた。
「なっ!な、なに!?」
慌ててヘッドホンを外したユンギは、首に掛けようとして地面へ落としている。
「気付かれた」
ミニョが、クスクス笑いながらリンに向かって言った。
「うん!!」
にっこり笑うリンは、立ち上がってミニョの肩に手を乗せ、ミニョは、リンを抱き上げながら立ち上がった。
「こんにちは」
ユンギに向き直ると綺麗な微笑を浮かべて少し首を傾げてみせる。
「こ・・・こんにちは・・・」
驚きに惚けているユンギは、信じられないものでも見るように目を見開き続けている。
「ふふ、そんなに驚かなくても・・・この前はありがとうございます」
「やっ、いえ、あの・・・こちらこそ」
立ち上がったユンギが、繋がっていたヘッドホンのコードをたくし上げた。
「あなたも作曲ですか!?」
「えっ!?」
「オッパと、あっ」
言いかけて口を大きく開けたミニョは、照れたように笑った。
「ファン・テギョンssiとカン・シヌssiとお知り合いなのでしょう!?」
「えっ!?」
ユンギは、慌てて手を前に出して否定する仕種をしたが、じっと見ているミニョの下げられた眦に参ったなと言った。
「もしかして、テギョンに、僕の事聞きました!?」
「はい!スペードのことも!」
ミニョが笑って答えると、ユンギはギターをベンチに置いて大きく伸びをした。
「そうですか」
「復活したのではないのですか!?」
世間で騒がれている事をミニョは聞いた。
「復活は、あの日だけって、決めてたんです」
この前、ミニョにサインを貰いに来た時のオドオドした感じが嘘の様に今日のユンギは堂々としている。
「この前と雰囲気が違いますね!」
ミニョは、ユンギを見て言った。
ミニョを正面から見つめるユンギは、背筋を伸ばしてポケットに入れていた手を出すと左右を見た。
「そうですか!?」
「アッパみたい!」
リンが、ミニョの腕の中から両手を上げて言った。
その言葉に首を傾げたミニョが、上目遣いにンッとなる。
「それって、アッパの顔が違うっていうのですか!?」
「うん!」
ミニョの首に腕を廻したリンは、にこにこ顔をミニョにくっつけた。
「答えを聞いてないですが・・・」
ミニョが、ユンギがいるのも忘れてリンに膨れてみせる。
「教えなーい!」
リンは、相変わらずミニョに答える気は無い様で、首を傾げるとユンギに言った。
「おじさんのギター凄いねー!」
エッという顔をしたユンギが、リンの顔を見る。
「そ・・・そんな事・・ないよ・・・」
照れたように頭に手を置くユンギが、下を向いて笑っている。
「シヌヒョンより、上手だよー」
「えっ!ええーと」
テギョンの子だから、それなりだろうと思っていたらしいユンギは、なんと答えるべきか迷っていた。
それは、過去唯一、A.N.Jellと比較されても他の人達に褒められたことだった。
「やっぱり、耳は良いんだね!?」
その言葉に、リンが、顎を上げて笑う。
「おじさん、今日は、ナンパしないの!?」
「えっ!?」
「ちょ・・・リン、何を!!!」
ミニョが、慌てている。
「アッパが、怒ってたー!今度、会ったら連れて来いって言ってたの!」
にこにこと笑って話すリンは、何かを期待しているような眼差しで、ユンギを見ている。
「えっ!?それっ・・・て、テギョンが、僕に会いたい・・って事ですか!?」
リンを見ていたユンギだが、ミニョに向き直って聞いた。
「クスクス、また、お会いできると思っていなかったのです・・・この辺に住んでいらっしゃるんですか!?」
「えっ、ええ、そうです!小さい時からここは遊び場なので・・・」
「ああ、だから・・・いつも、見てるって、そういうことですね」
ミニョは、一人納得したように頷いた。
「シヌオッパも会いたがってましたし、良ければ、家に来ませんか!?」
「えっ!?」
「テギョンssiも会いたがってますから・・・」
「おじさん、遊びにきてー!」
ミニョとリンが、二人でユンギを家に誘った午後の出来事だった。