ゆっくりと、重なった唇が離れていく事に寂しいと思ってしまった自分が、あまりに恥ずかしくて俯く事しか出来なかったの。
顎に掛けられた指を綺麗だなと思って見ていたのよ。
あなたの指に促されるままに顔を上げたけど、どうしても視線を合わせることの出来ないわたしにこっちを見てって言ったわね。
「どうして!?」
ふるふると首を振ったわたしの顔は、とても熱くてその熱でどうにかなってしまいそうだったの。
立っているのが不思議なくらいふわふわしてた。
「ダメなの!?」
あなたの不安そうな声が聞こえてきて、とてもビックリしたわ。
思わず、真っ直ぐにあなたの顔を見て、首を振ったけど、真っ赤な顔、見えたわよね。
やっぱり、俯いちゃった。
でも、次にあなたがしてくれた事。
絶対、絶対忘れないと思う。
そっと、近づいて、抱きしめてくれた事。
今でも、この体に、あの時の熱は残っていて、思い出すと、涙が出るけど、わたしの肩で震えたあなたを愛してるって思ったわ。
本当は、あの時、泣いていたわよね。
嬉しかったのよ。
あなたがそうやってわたしの前で泣いてくれる。
わたしの為に泣いてくれる。
愛してるって言ってくれる。
もうすぐ、この手紙を書く事は出来なくなるけれど、いつか、あなたのその腕で、もう一度抱きしめて歌わせてもらえるかな。
★★★★★☆☆☆★★★★★
手紙は、そこで終わっていた。
これが、最後の日付だ。
最初で、最後の告白。
愛してるという彼女の思い。
それを届けに来た彼女に良く似た天使。
天使がくれた手紙は、ユンギが書いたものだったけど、それらの一通一通に返信が書かれてあった。
病院のベッドの上で書かれたらしいそれらは、短いものもあれば長いものもあった。
そして、最後の日付は、ユンギが、最初に書いた手紙に添えられていた。
「ばかだなぁ、もっと早く言ってくれれば良かったのに・・・」
零れる涙を拭おうともせず、ユンギは写真を見つめている。
出会った時、彼女は既に人のものだった。
雑踏の中で触れた指先は、反対側に小さな天使を連れていた。
何故、あの時惹かれたのか、お互い判らないまま、短い恋をした。
ただ、いつだって、彼女は、本気だとは言わなかった。
年上の歌の上手な彼女はクラブのシンガーをしながら、子供を養っていた。
その彼女とスペードを立ち上げた。
ユンギの独特の世界に彼女の声はとてもマッチしていて、デビュー前にも関わらず、あちこちから歌って欲しいと依頼がきた。
最初は、金の為だったのだろう。
路上やクラブで歌う事には、抵抗を見せなかったが、デビューの話が持ち上がった頃から二人の関係は、ギクシャクし始めた。
後でわかった事だが、結局ユンギの家からの圧力もあったらしい。
まだ、若すぎたユンギ。
年上のそれも子持ちという事をどこかで聞きつけた両親が、彼女に接触していた。
「アメリカに行くことになったの」
「デビューは!?」
「ごめんなさい」
彼女以上の声なんて見つけられなかった。
だから、ユンギは、スペードを辞めた。
ヒジュンは、二人を見ていたから、何も言わずに了承した。
結局、最後まで、彼女の口から愛してるとは聞けなかった。
「大好きよ!それじゃダメなの!?」
キスをして体も繋げて、それでも、言葉が欲しい。
「僕が、ガキだったんだよね」
自嘲的に写真に笑うユンギは、涙も止まっている。
「たくさん愛してるって書いてあった・・・僕も・・君を愛してる」