「アッパ!お仕事行くの!?」
斜めに視線を上げたテギョンが、廊下をリビングへ向けて歩きながら答えた。
「お前も来るのか!?」
「行っても良いの!?」
持っていたジャケットを持ち替えて、少しだけ後ろを振り返った。
「行くなら早く着替えて来い!」
「わーい!」
リンは、嬉しそうに階段を摑まり立ちで降りてきた。
「オンマー、僕、お出かけするー」
両手を上げて、嬉しそうに、クローゼットのある部屋へ走って行った。
その声にミニョが、リビングから顔を出した。
「えっ!何処へ行くのです!?」
入り口のドアのところで、テギョンと鉢合わせをしたミニョは、見上げるテギョンに聞いた。
「連れて行くのですか!?」
「ああ。別に、今日は、スタジオ練習だけだからな。俺がいなくてもミナム達がいるから大丈夫だろ」
テギョンは、ミニョの両腕を支えるように立ちながら見下ろしていた。
「それより、早く飯にしてくれ!」
テギョンは、ミニョの体をひっくり返すと、肩を抱いてリビングへと入って行く。
「朝食は出来てますよ。それより、リンの着替えを手伝わないと・・・」
ミニョが心配そうに口にした。
「大丈夫だろ。あれは、お前と一緒で強情っぱりだからな」
「!どういう意味ですか!?」
ミニョが、ムッとしたようにテギョンを見ると口の端で笑っている。
「そのままだろ」
テギョンがミニョの額を指先で小突き、その額を押さえるように手を当てたミニョが、片目を閉じて唇を尖らせた。
「もう!オッパにも十分似ていますから!!」
「当たり前だろ!俺の子だ!」
そう言いながらテギョンは、スタスタとダイニングテーブルの前に座った。
並べられた、朝食を満足そうに眺め、ジャケットを椅子に掛け真ん中に置かれたドリンクピッチャーを手に取って用意されたグラスになみなみと水を注いで、グイッと煽った。
ミニョも隣に座る。
テーブルには、ミニョの作った様々な料理が並んでいた。
テギョンの嫌いな野菜をたくさん使ったものも用意しているが、最近は、リンの手前もあってか、残さず食べてくれるようになっていた。
「ちょっと、遅くないですか!?」
テギョンが箸を手に朝食を口に運び始めたが、ミニョは、戻って来ないリンが心配なのかソワソワし始めていた。
「やっぱり、見てきます!」
ミニョが、そう言って立ち上がるとテギョンが腕を掴んで止めた。
「もう少し待ってろ!」
テギョンが、呆れた声で言った。
「でも・・・」
ミニョは、廊下の方を眺めながら不安そうな顔をする。
「大丈夫だから!」
テギョンが、そう言ったのとリンの大きな声が聞こえたのは、ほぼ、同時だった。
「オンマー!!!はやくー。来てよー!!」
ミニョが、テギョンをチラッと見て、少しだけ膨れている。
「呼ばれたみたいですね・・・」
「・・・そうだな」
テギョンが、悔しそうに口にすると、ミニョから手を離した。
「早く・・・行けよ・・・」
テギョンが、顎をクイッとあげた。
「ええ」
そう答えたミニョは、パタパタとスリッパの音を鳴らして廊下を走って行った。
「チッ!着替えくらい一人で出来るだろうに・・・ミニョが、甘やかしすぎなんだ!」
テギョンは、水を煽ると、前に置かれたナムルの皿に手を伸ばす。
「うえっ・・・あいつ、またほうれん草をこんなに入れて・・・」
苦い顔をしながら、箸を口に運んでいる。
テギョンが、半分くらい食事を終えた頃、ミニョがリンを腕に抱えて戻ってきた。
「上出来ですね!」
「うん。僕、えらいー」
そんな会話が聞こえてくる。
「何が偉いんだ!?」
テギョンが、ジロッとリビングを見た。
ミニョは、ソファの上にリンを降ろしながらテギョンの方を見てリンに向き直り、にこにこ笑顔を浮かべている。
「お着替え一人で出来たものね!」
「うん!!」
リンが、ソファに立ち上がると背もたれに顎を乗せテギョンを見た。
「アッパ、早く行こうよ!」
横目でリンを見たテギョンは、唇を尖らせると左右に動かした。
「一人で出来たなら、なんでミニョを呼んだんだ!?」
クスクスと笑いながらミニョが、ダイニングへと戻って来て、冷蔵庫を開け、リンの為のフレッシュジュースを取り出している。
「あれですよ!」
口元に手をあて、リンを見るとソファに座ったリンは、先の尖った鉛筆を手に持ち、前に翳して天井の方を見ている。
「なんだ!?」
「鉛筆が、削れなかったのですって」
「はぁ!?」
テギョンが首を傾げた。
「アッパとスタジオに行ったら、新しい音が一杯聴けるから、一本じゃ足りないって」
「鉛筆削りが廻せなかった・・・のか」
テギョンが呆れたように言った。
「そうです。着替えは出来たけど、鉛筆が丸くなっていたのでそれでは嫌だった様ですよ」
「何しに行くつもりなんだ!?」
「作曲じゃないのですか!?」
ミニョは、相変わらずクスクス笑っている。
「オッパの子供ですから!」
そう言うとリビングにいるリンの為にジュースの入ったボトルを持っていった。
「はい。リン。ちゃんとカバンに入れておきますよ」
「うん。オンマ、ありがとう」
「ふん。作曲ね!まぁ、ピアノの方は、大分上達してるがな」
食事を終えたテギョンは、ジャケットに袖を通すと、ソファの傍までやってきた。
リンを後ろから抱き上げ、腕に乗せると、頭を撫でた。
「まぁ、着替えが一人で出来たのは偉かったな!褒美は何がいい!?」
「何かくれるの!?」
「オッパ!!」
リンの嬉しそうな声と、ミニョの嗜めるような声が重なった。
「今日のレッスン代としては、良いだろ」
テギョンがニヤッとしながらミニョを見た。
「じゃあねー僕、玉子のお寿司が食べたい!」
テギョンがリンの顔を見た。
「いいぞ!じゃぁ今夜は外で食事にしよう!」
「やったー!」
少し膨れるミニョが、上目遣いにテギョンを見ていた。
「オッパ!あんまり甘やかさないで下さい」
「お前ほどじゃないさ!それより、後から来いよ!」
そう言うとテギョンは、リンを連れてツカツカと玄関に向かって行った。
「判りました。いってらっしゃい」
「行ってきまーす!」
リンの元気な声が、玄関に響いていた。
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